パンク歌舞伎「マクベス」 安住恭子評

veatrice2011-01-08

2011年1月8日(土)中日新聞夕刊芸能欄の「安住恭子の舞台プリズム」でパンク歌舞伎「マクベス」が取り上げられた。中日新聞(のみならず日本の新聞)Web版には残念ながら「文化・芸術」の欄がなく従ってリンクを貼ることもできないので(NYTimesやGurdianなど欧米では劇場芸術評論は新聞の花形記事で当然Web版にもあるのに)ここに夕刊の新聞記事をそのまま書き写して記録しておきたい。

引用開始

名古屋能楽堂で上演されたパンク歌舞伎「マクベス」(渡邉健・原智彦台本、原演出、タートルアイランド音楽)は、シェークスピアと歌舞伎と現代が融合する、実に魅力的な舞台だった。


  「マクベス」は、三人の魔女の予言に心狂わせたマクベスとその夫人が王を殺し、さらに心を狂わせていく悲劇。原はそれを、魔界の女王ヘカテが三人を含む妖精たちを使って人間を操る悲喜劇として見せる。とりわけマクベスの悪心をリードする夫人のせりふをヘカテが語る形で、乗り移り操る様を示した。


  その上で、歌と舞とさまざまな舞台技術を駆使して華やかな舞台を作るという歌舞伎の精神にのっとった、多彩な演出を仕掛けた。音楽のタートルアイランドは日本やアジアの民族楽器を取り入れたパンクバンド。ナチュラルな音色とビートの効いた演奏で、この劇の心を熱烈に歌い上げていく。時にはソプラノや琴の演奏も入った。


  そしてマクベス夫人や三人の魔女らをはじめ、日舞や舞踏が絡み合ったダンスが全編を貫いていく。マクベス王の祝宴シーンはこれらの音楽とダンスの饗宴だ。さらにドクロの錦絵やマクベスの分裂した姿を映しだす映像とカラフルな照明が、暗黒の狂気を彩る。普段は見せない王殺しのシーンを強いて描いたのも、怪奇趣味の歌舞伎的趣向だろう。このように実に多彩な表現が入り混じる舞台だった。それでいてシェークスピアのドラマ性を失わず、渾然一体となって祝祭空間を作った。それが歌舞伎なのだとあらためて思った。(12月25日、名古屋能楽堂

引用終わり

安住さんの劇評は一読者として私もファンです。良いところは言葉を惜しまず評価し改善すべき点は厳しく的確に指摘する文章には日本の舞台芸術の成長を願う愛が感じられます。長年、幅広いジャンルを見続け日本の演劇評論文化を引っ張っていらっしゃる方に、このようにしっかりと観ていただき、おまけに好評をいただけたことは表現者側としては本当に嬉しいです。

「歌舞伎の精神に乗っ取った多彩な演出」
「それが歌舞伎なのだとあらためて思った」

これ以上の褒め言葉はありません。
安住恭子さん本当にありがとうございました。