やればできるじゃん!

veatrice2010-01-03

「ニューヨークは危ない町」というイメージはもう過去の話。犯罪件数は毎年減少を続けており、現在では全米で最も安全な都市の一つだ。右の表でわかるように、ピーク時の1990年は年間2,245件あった殺人事件はその後減り続け2007年には496人まで減った。日本と比較すれば実数ではまだまだ多いが、10年足らずの間に1/5近くまで減ったというのは、はんぱない成果である。

もちろん自然現象ではない。時代や社会の変化など様々な要因が絡み合ってはいるにせよ、基本には「犯罪を減らす」という明確な意志と意図が結実したものである。NY市の取り組みは、マルコム・グラッドウェルの大ベストセラーTipping Point(邦題「売れ始めるにはワケがある」)で取り上げられて一躍有名になった。

犯罪学者ジョージ・ケリングが提唱した「割れた窓理論」を信奉するデイビッド・ガンを地下鉄公団総裁に迎え入れ、周りの冷笑の中「地下鉄落書き撲滅作戦」を84年に開始。それが奏功すると90年に同じくケリング信奉者のウィリアム・ブラットンを地下鉄警察の指揮官に招聘し「無賃乗車撲滅作戦」にとりかかる。彼が就任して軽犯罪の逮捕者は5倍に増えたが、逮捕者の7人に1人は他の凶悪犯罪の手配者でもあって一石二鳥。94年に就任したジュリアーニ市長はブラットンをNY市警の長官に任命し、地下鉄で用いた戦略(軽犯罪を見逃さない)を全市に適用し、以後、NY市の犯罪は減少の一途をたどるようになった。やったね。明確な信念と正しい方策の勝利だね。

しかしそこに、07年のサブプライムローンショックで08年は犯罪件数は増加に逆戻り。さらに、そこへ追い討ちをかけるように08年のリーマンショック。あああ、せっかく減ってきたのに、09年は景気と失業率のさらなる悪化と共に犯罪は増加してしまう、と誰もが思ったことだろう。

ところが誰も予想しなかったことだが、09年度は、犯罪件数が再び減少したのだ。NYTimes の報道によれば12月27日現在の殺人件数は461人。過去最低だ。これに関して専門家は「ありえないことだ。」と言っているだけで原因は言及していない。NY市のコメントでは「他州からの銃の持込をさせない取締りの強化、ITの活用、街角の警官のプレゼンス」などと言っているが、あまり説得力がない。それなら前年もやっていたことだ。

しかも、NY市は41億ドルの赤字をかかえるため経費節減中で、警察の人員は2001年比で6000人分縮小されている中での成果だ。”DO more with less”がマントラのように唱えられ、警備が手薄になった中での成果だ。

さらに、この犯罪減少傾向はNYのみにとどまらず全米の傾向だった。FBI発表によると09年上半期の統計で、09年度は08年度の同期比で、殺人事件は全米平均10%減少した。NY市はこの全米平均を上回る19%減だった。


では、原因はいったい何?普通、景気が悪くなると人はデスパレードになって、やけのやんぱち(←古っ)で犯罪に走るはずなのに、何でなの?専門家もわからないって言っている。ふつう、ありえないよね。

で、私が思うに、やっぱ、オバマ効果じゃないかなぁ。オバマ大統領が就任したことが全米に与えた「希望の灯」。11月にまさかの初の黒人大統領が誕生して、1月の就任式を見た「絶望予備軍」に「オレもがんばってみようかな」っていう希望の光がともったんだよ。少なくとも、しばらくはがんばろうと思ったはず。その証拠に、NY市では「1人も殺されなかった週」が、それぞれ2月と3月に1回ずつあったそうだ。

犯罪を思いとどまった人を探し出して「あなたが殺人を思いとどまった理由を以下から選べ。1.失業して凶器が買えなかった。2.失業して空腹で襲う元気がなかった 3.オバマ大統領を見てばかな事を思いとどまった 4.その他」なんていうアンケート調査はできないから証明はできないけどね。


日本でも「減少現象」は起きている。9年連続減少の自動車死亡者数だ。警察庁の発表によると、09年度の交通事故死者は、4,914人で、5000人を割るのは1952年以来、57年ぶりだそうな。過去最悪の70年の16,765人の29%まで減ったそうな。シートベルト義務や、飲酒運転の罰金30万は大きかったね。あと、若者の車離れは、ここではいい結果を生んでるね。9年連続減少!57年ぶりの好成績!日本も、やればできるじゃん!!

明確な意志と、的確な方策と、少しの希望があれば、きっとやればできる。

3万人の自殺者だって、温暖化ガスだって、本気を出してやれば減少させられるはず。